「とても複雑な心境です」
偽らざる思いだったろう。
でも、成し遂げたことは、大きかった。
6月26日、陸上の日本選手権100mハードル決勝。寺田明日香は13秒09で優勝した。
それは実に11年ぶりの優勝だった。陸上競技でこれほどの期間が空いての優勝はこれまでになかったのではないか。
それでも寺田が、笑顔ではあっても手放しで喜ばなかったのはタイムが理由だった。
「やっぱりここでオリンピックを決めたかったので、残念な気持ちもあります」
日本選手権の段階で代表に内定するためには五輪参加標準記録である12秒84を切り、3位以内に入る必要があった。日本記録でもある自己ベストは12秒87。簡単ではないハードルをクリアすることが求められていた。
世界ランキングにより出場権を得ることもできる順位につけてはいた。出場権が与えられる上位40名のうち、日本選手権の時点で寺田は36位。可能性を十分持っているとはいえ、ランキングの発表(7月1日)直前に行われる海外での大会の結果に、自身の五輪出場が左右される展開となった。自分の走りによって、すっきり決めたいという思いはあっただろう。
自ら走り、決める――。その姿勢は寺田のこれまでの歩みともどこか重なる。