大迫傑の日本記録を破るとしたら? 舞台は東京マラソン、候補者は……。

 小さな声で、こうつぶやいた。

「まだ心の整理はできてないけど、最後のひと枠を掴みにいきたいです」

 声の主は、井上大仁

 男子マラソン界の「4強」に挙げられながら、MGC「マラソングランドチャンピオンシップ」ではまさかの最下位に沈んだ(途中棄権したランナーを除く)。井上がゴールした時にはすでにゴール裏で表彰式が行われていたが、ちらりとも視線を這わせることなく、彼は取材陣が構えるミックスゾーンにやってきた。

 2分半ほどの短い受け答えの最後に言ったのが、このひと言である。

 敗因は正直、わからない。ただ、前半から体に違和感があった。思うように足が動かなかったという。中継のテレビカメラが、その象徴的なシーンをとらえていた。

 大きな塊の第2集団が縦に伸び始めた13km過ぎ、井上が白い帽子を投げ捨てたのだ。暑さ対策のために準備してきた武器を前半で自ら手放すなどありえない。あのとき何が起きていたのか。短い回答があった。

「正直、イライラしてました」

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